教育基本法と学習基本宣言
わが国の大学では,現在,授業改善を図るためにFDと称される運動が推進されています.授業の教育効果を高めるために,教授法の改善が行われているのです.なかには「板書は分かりやすかったか」とか「説明ははっきと聞き取れたか」といった小学校の授業改善で用いられているような項目すらあります.
一方,ヨーロッパでは欧州高等教育圏を形成して,ヨーロッパ全域での欧州単位互換制度(ECTS, European Credit Transfer System)を実現しつつあります.そのときの単位互換の基準となっているのは学習成果(learning outcomes)です.何を教えたかではなく,何を学んだかについて在学した大学での学習成果を記述することによって単位認証を実現しようとしています.
ところで,わが国の学校教育や大学教育で,学習者主体の授業を実現しようとすると,さまざな障害があってなかなか困難です.その根本には教育と学習についての考え方の違いがあるからでしょう.
わが国の学校教育や大学教育の基本となっているのは教育基本法ですが,その第一条から第三条まではつぎのように規定されています.
教育基本法
第一章 教育の目的及び理念
(教育の目的)
第一条 教育は、人格の完成を目指し、平和で民主的な国家及び社会の形成者として必要な資質を備えた心身ともに健康な国民の育成を期して行われなければならない。
(教育の目標)
第二条 教育は、その目的を実現するため、学問の自由を尊重しつつ、次に掲げる目標を達成するよう行われるものとする。
一 幅広い知識と教養を身に付け、真理を求める態度を養い、豊かな情操と道徳心を培うとともに、健やかな身体を養うこと。
二 個人の価値を尊重して、その能力を伸ばし、創造性を培い、自主及び自律の精神を養うとともに、職業及び生活との関連を重視し、勤労を重んずる態度を養うこと。
三 正義と責任、男女の平等、自他の敬愛と協力を重んずるとともに、公共の精神に基づき、主体的に社会の形成に参画し、その発展に寄与する態度を養うこと。
四 生命を尊び、自然を大切にし、環境の保全に寄与する態度を養うこと。
五 伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛するとともに、他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養うこと。
(生涯学習の理念)
第三条 国民一人一人が、自己の人格を磨き、豊かな人生を送ることができるよう、その生涯にわたって、あらゆる機会に、あらゆる場所において学習することができ、その成果を適切に生かすことのできる社会の実現が図られなければならない。
以上の考え方は,教育を行う立場からのものですが,自律学習を実現しようとすると,教育する人は存在しないのですから学習者の立場から基本的考え方を宣言する必要があります.そのような高等教育機関を自律学習大学校と呼ぶことにしましょう.そこでその基本的な立場を宣言してみるとつぎのようになるでしょう.
自律学習大学校の学習基本宣言
自律学習大学校は,公的資金ならびに寄付によって運営されるので,学生はつぎのような学習の目的ならびに理念を理解して学ぶことを宣言する。
第一章 学習の目的及び理念
(学習の目的)
第一条 学習は、変動社会において人間の尊厳を尊重しながら生活を安定させるために,変化する専門的職業に対応してたえず新しい職能を習得することを目的とする。
二 学習は,社会に貢献することを目指し、平和で民主的な国家及び社会の形成者として必要な資質を習得することを目的とする。
(学習の目標)
第一条 学習は、その目的を実現するため、人間としての尊厳と学習権を尊重しつつ、次に掲げる目標を達成するよう行われる。
一 個人の学習権を尊重し、その能力を伸ばして創造性を発揮し、自主及び自律の精神に基づいて、職業及び生活との関連を重視した専門的知識と技能を習得する
二 幅広い知識と教養を身に付け、平和と共生を希求する態度を身につけ、職業倫理を尊重するとともに、健康な生活が享受できるように身体を鍛える。
三 公平と責任、自他の敬愛と協力を重んずるとともに、公共の精神に基づき、主体的に社会の形成に参画し、その発展に寄与できる能力を習得する
四 生命を尊び、自然を大切にし、環境の保全に寄与できる態度と能力を習得する。
五 伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛するとともに、国際社会の平和と発展に寄与できる態度と能力を習得する。
(生涯学習の理念)
第三条 国民一人一人が、変動する社会にあって,安定した人生を送ることができるよう、あらゆる機会に、あらゆる場所において学習することができ、その成果を適切に生かすことのできる生涯学習社会を実現するために自律学習の普及に努める。
以上のような自律学習大学校の入学資格は,現行の大学の混乱を避けるためにつぎのように限定すべきかも知れません.
(入学資格)
第四条 本大学に入学できるものはつぎの条件を満たす者である.
一 失業保険受給者およびその家族
二 生活保護世帯の世帯主およびその家族
三 厚生労働省の五分位階級別の所得による第1階級の世帯主およびその家族
四 厚生労働省が規定する外国人労働者で上記の項目に該当する世帯主およびその家族
五 その他上記の項目に準ずる者