専門職教育と公式外学習と教育費

2月21日に関空から出発してパリにでかけました.23日にはボローニァプロセスに対してフランスがどのように対応しているのかについて専門職免状を与えているCNCP(Commision Nationale de la Certification Professionnelle)のMadame Anne-Marie Charaudからいろいろと状況をお聞きすることができました.2時間50分にわたっての会談でしたが,録音を採ることが許されたものの,専門用語も多く含まれているのでフランス語による会談でした.久しぶりにフランス語で長時間のやりとりだったのでかなり疲れました.以前に技術教育高等師範学校に10か月ほど留学していたこともあり,そのときに主として技術教育の制度や専門教育についても調べたことがあったのでさまざまな免状のことや大学と高等専門教育との関連もお聞きしたが,大変親切に説明していただきました.録音したもののテープ起こしをしたいと思いますが,これを他人にお願いすることもできないので,少し時間がかかっても自分でやるしかないかと戸惑っています.

大学教育と高等専門教育のことをいろいろと質してみましたが,結論としてフランスは伝統的な大学の在り方,すなわち抽象的な思考に優れた学生を入学させて新しい知識を創造することに専念できるような中世以来の伝統を守ることに成功しているといえます.そして近代の科学技術が要求している高等専門教育については教育省だけでなく,それ以外の省庁に付設されている専門学校のほかに,私立の専門学校で技術教育が実施されています.このうちの各省庁に属している専門学校で,たとえば私が留学していた技術教育高等師範学校は現在地名をつけたカッション高等師範学校になっています.以前は入学と同時に少額ではあっても給料が支給されていたのですが,最近では無給になっているとのことですが,授業料はもちろん無料です.1960-70年代に多く創設された私立の専門学校も企業と契約して分担金を納めてもらっているので授業料は無料です.そして大学に入れるのは一般バッカロレアのうちの科学(自然科学,社会科学,人文科学などが含まれる)の試験に合格したものだけですので人数もそれほど多くないことと,本来,職業教育とは無縁ですので高等教育のユニバーサル化とも関係ないのですが,ボローニァプロセスが進めている欧州高等教育圏との関係では複雑になっていて,2009年すなわち今年から大学にもボローニァプロセスの説明会が始まり,この3月12-13日にも開かれるとのことです.すなわち大学はもともとヨーロッパで自由に行き来していたのですが,専門教育においても単位互換の問題が生じてきます.

午後からは私立の高等教育機関であるCESIについて話を聞くことができました.この組織はフランス国内に24か所のサイトをもち,スペインとアルジェにブランチをもつ専門的なコンサルタントや専門家養成を行っている高等技術教育機関です.わが国の工学部とコンサルタント会社が一緒になっているような組織で570名の職員と2000人の専門家のネットワークをもち,年間23,000以上の研修生,見習生,生徒が教育されているところです.このような機関が高等専門教育を企業との契約で実施しているので学生はもちろん財政的負担はありません.このような私立の専門学校はたくさんあるそうですが,このCESIがもっとも大きいとのことです.

以上のような背景をもつヨーロッパで国連決議にもある高等教育を無償にするとしているのですから,日本の大学の授業料を現状のままで無償にすることは不可能です.しかし,家庭に対する教育負担がまったくないということは注目すべきであり,これがヨーロッパの職業と教育にたいする考え方です.社会全体ですべての若者に高等教育までを保障しようというものです.

二日目の25日にはOECDに出かけて,Dr. Patrick Werquinにお会いして公式外・非公式学習についての考え方でいろいろと助言や示唆をいただきました.我が国では公式教育(formal education)があまりにも高額ですから,今後,non-formal learningにも注目してe-learningを積極的に進めるべきです.しかし,このプロジェクトに参加している23か国にわが国は含まれているのですが報告書が提出されている16か国には含まれていません.e-learningの社会的活用に関してもわが国はまだまだ冷淡なようです.我が国の国民の高額な教育負担はいつもで続くのでしょう.しかし国民から支持されない大学はそのうちに消滅していくでしょう.